製造終了したµPD72001のデバイス置き換え開発 マルチプロトコル通信コントロールIP「MPI-IP」
こんにちは、小野です。
古い通信機器や産業装置を長年運用していると、避けて通れないのが部品の製造終了(EOL:End-of-Life)です。
特に通信制御用のLSIは、単に機能が同じ部品へ差し替えればよいわけではなく、既存ソフトウェアや周辺回路との整合まで含めた検討が必要になります。
そこで今回は、NEC社製通信コントローラLSI「µPD72001」のソフトウェア互換を可能にする、OKIアイディエスのマルチプロトコル通信コントロールIP「MPI-IP」をご紹介します。
この記事を執筆しているのは春が過ぎ去った5月です。公開される頃には6月ですよ。もう初夏です。
そういうのは、いったん横に置いておいて。春は、新しい人との出会いの季節ですが、今まで仲良くしていた人との別れの季節でもあります。別れって泣けますよね。
平成の青春ドラマを思い出しますよね。それが今回のブログとどう関係が?
人とだけでなく、今まで使用していたデバイスとの別れもある意味辛いのです。ほら、よくEOLって耳にしますよね。
部品の生産終了に、季節は関係ない気がしますが…。OKIアイディエスはEOLに対応したソリューションがあります。
リバースエンジニアリング&マイグレーション統合サービス「N-Process™」や、
FPGAデバイス置き換えサービス「iReDevice™」を過去に紹介しましたよね。
もうすでにEOLになったデバイスですが、「µPD72001」というLSIを知っていますか?
いえ、知らないです。前にEOLになったということは、だいぶ昔のLSIでしょうか?
そうです。過去にNEC社が製造・販売していた通信制御に使われるLSIですが、いまだに現役でシステムの中で稼働し続けているんです。
そうなんですね…。EOLになったということは、もうすでに老朽化しつつあるのでは? そのまま使い続けていたら、ある日突然動かなくなりそうで心配ですよ。
実際に、すでに老朽化が始まっています。レガシーシステムの保守や維持が課題になっており、当時の設計者や技術者がいなくなったことで、置き換え開発の進め方に悩むお客様が増えているんですよ。
最近は当社への相談もまた増えてきています。
以前、「N-Process」や「iReDevice」をブログでも取り上げましたよね。そんなお客様へは、「N-Process」や「iReDevice」を提案しているということですか?
実はこのデバイスの置き換え開発の相談は10年以上前からありました。そこで、当社はNEC製µPD72001の置き換えに対応するマルチプロトコル通信コントロールIP「MPI-IP」を提案しています。
そんなIPが…。今までひっそりと隠れていて全然存在を知りませんでした!
そんな隠れたニーズに応える「MPI-IP」を紹介します。今回はちょっとニッチな領域です。お楽しみに。
NEC製µPD72001の概要
ところで、µPD72001ってどんなデバイスだったんですか?
まずはそこから。NEC製PD72001は、HDLC通信などに対応したシリアル通信コントローラLSIです。通信の高速化やエラーチェックの自動化によるCPUの負荷軽減ができることが特徴です。20年くらい前の開発現場では、さまざまな分野でよく採用されたデバイスだったんですよ。
NEC製µPD72001の基本仕様
- バス幅:8ビットパラレルバスに対応
- 最大通信速度:最大11Mbpsのシリアルデータ通信をサポート
- 対応プロトコル:HDLC(BOP)、文字同期(COP)、調歩同期による複数の通信方式に対応
補足
- BOP(Bit-Oriented Protocol:ビット指向プロトコル)
:特定のビット列を使ってデータの区切りを定義するプロトコル
- COP(Character-Oriented Protocol:文字指向プロトコル)
:特定の文字コードを使ってデータの開始・終了を定義するプロトコル
複数通信や高速シリアルデータ通信の機能がウリだったんですね。
しかも3つの通信方式にも対応している!
特にHDLC(High-Level Data Link Control)に対応していることが大きなポイントです。これは、OSI参照モデルのデータリンク層で定義された通信プロトコルです。フレーム構造によるデータ管理やCRCによるエラー検出機能を備え、信頼性の高い通信を可能にします。
通信インフラ機器や産業機器などで広く利用されています。
正確な通信の下回りを支える機能や要素がたくさん詰まっていますね。でも、通信なら、わざわざ通信専用のデバイスを用意しなくても、万能なCPUを使えばソフトウェアで通信できるのではないですか?
チッチッチ。CPUとソフトウェアだけで通信しようとすると、特にHDLCではCPUの負荷がかかって通信の遅延が大きくなりやすいんですよ。そこで、µPD72001のような通信制御LSIを組み合わせることで、通信のリアルタイム性や信頼性を大きく高めていたのです。
なるほど! ハードウェア化で長期的な安定動作を実現した、ということですね。ちなみに、どんな分野でµPD72001は使われていたんですか?
本当にさまざまです。ルーターやモデムのようなネットワーク通信機器、産業用制御システム、電力や交通などを監視する公共インフラ機器など…。1990年代から2000年代初頭にかけて、µPD72001は日本国内でHDLC通信用の中核的なICとして広く採用されました。
そんなに古くから!社会インフラの機器にまで使われるような信頼性バツグンのICだったのに、EOLになってしまったのですね…。
そうなんですよ。µPD72001のEOLは、通信・制御分野の市場縮小と、半導体生産コストの増加が主な要因です。EOL以降、部品調達ができなくなったり、部品の置き換えにリスクがあったり…。
20年以上前の時代なら、最大11Mbpsのシリアルデータ通信でも高速と言われても、現代は数Gbpsの通信が当たり前の時代です。µPD72001と同じ部品の需要はもうないですから、別の部品を選定する必要があります。
結果として、レガシーシステムとなって保守が難しくなっているのです。まさに、冒頭で触れた部品のEOL対応の課題ですね。
こうした影響を最小限に抑え、システムの安定運用や事業継続を確保するためには、確実な「代替ソリューション」の検討が重要ですね!
そこで、OKIアイディエスが提供しているのが、マルチプロトコル通信コントロールIP「MPI-IP」なのです。
MPI-IPとは
EOLとなった従来のLSIから、MPI-IPを組み込んだFPGAへ置き換えるだけで、NEC製µPD72001用ソフトウェアを変更せずに、既存の通信機能を代替することができます。
え?ソフトウェアの変更や更新、修正はいらないんですか?
デバイスの置き換え開発にはついて回るものだと思っていました。
本IPはµPD72001互換の通信コントローラとして開発されました。なので、ソフトウェア互換性を備えています。
じゃあ、µPD72001が対応していた通信プロトコルのHDLC、文字同期、調歩同期には、すべて対応しているんですね。
いずれも対応しています。複数の割り込み制御部とDMA制御部を搭載し、リアルタイム性と効率的なデータ転送を可能にします。主な仕様を下記にまとめておきます。
| 対応プロトコル |
調歩同期、文字同期(COP)、HDLC(BOP) |
| チャネル数 |
全二重×2チャネル |
| バッファ |
送信2段/受信4段 |
| データフォーマット |
NRZ、NRZI、FM、マンチェスタ(受信のみ) |
| DMA対応 |
外付けDMAC用のDMA要求信号(DREQ)出力 |
| 内蔵機能 |
DPLL、ボーレートジェネレータ |
| 追加機能 |
HDLC送信フラグ数設定機能(受信オーバーラン防止) |
提供物は、IP本体(RTLまたはFPGA用ネットリスト)、IP仕様書、制御仕様書、シミュレーション環境一式になります。
これなら、MPI-IPを搭載したFPGAへ置き換えるだけで、µPD72001の置き換え開発の見通しが立ちやすくなりますね。
当社のMPI-IPを適用したAMD製FPGAでの開発事例をここで紹介!µPD72001からAMD製FPGAであるSpartan-7に置き換えました。
Spartan-7というと小型なFPGAというイメージがあります。小規模なFPGAにもMPI-IPは実装できるんですね!
小型FPGAでも十分実装が可能なんですよ。下にMPI-IPで使用しているリソース情報をまとめました。1チャネルのみ使用している例ですが、MPI-IPは2チャネルの通信が可能で、またカスタマイズで増やすこともできます。
| 適用デバイス |
Slice LUTs |
Slice
Registers
|
IOピン |
Spartan-7
XC7S6
(一番容量の小さいもの)
|
1302
(35%使用)
|
893
(12%使用)
|
53
(53%使用)
|
MPI-IPのギモンをズバッと解決!一問一答コーナー
ここからは、久しぶりの大人気コーナー!よくお客様から聞かれる質問をまとめて、我らのボスがズバッと答えていきます!
気になるポイントもこれで解決!どんな質問でも答えていきます。最初の質問をお願いします!
まずは僕の質問です。μPD72001から置き換えるデバイスとして、FPGAを採用するメリットってあるんですか? 通信専用のLSIであれば、FPGA以外も候補になり得るんじゃ?
確かに「わざわざFPGA?」と感じる方もいらっしゃいます。FPGAならではの設計変更や機能追加のしやすさが、将来のシステム要件や仕様変更にも柔軟に対応できることにつながってくるんですよ。
確かに、回路を書き換えできるという点でFPGAは、システム導入後でも機能追加ができるといった長所がありますよね。それに、先ほど見せてもらったリソース情報から、まだFPGAのリソースには余裕があります。
That’s right! 複数の通信コントローラや周辺機能を盛り込むこともできます。外付け部品を減らせるため、基板設計の簡素化や小型化にもつながります。採用するFPGA次第では、PCI Expressのような最新のインターフェースにも対応できます。
現在主流になっているPCI Expressのような高速通信インターフェースに対応できるということは、既存システムの延命や新規開発にも最適ですね。
それだけじゃないんです。 仮に選定したFPGAがEOLになった場合でも、別のデバイスに設計を実装しなおすことで機能を継続して確保できる点もメリットです。
つまり、FPGAならではの設計変更のしやすさや機能追加のしやすさのおかげで、将来の仕様変更も柔軟に対応可能!さらに周辺回路をFPGA内に統合することで、基板の小型化にもつながる!だからFPGAが選ばれるんですね!
続いての質問です。FPGAのデバイス選定はどうすればいいですか?
OKIアイディエスのFPGA技術者が、MPI-IPや他機能のリソースなどをもとに最適なFPGAを選定し、ご提案できます。もちろん、お客様ご指定のFPGAでも検討しますよ。
ライセンス形態もよく聞かれる質問です。MPI-IPを実装・使用するFPGAに対して、1ライセンスになります。使うデバイスにライセンスが付与されていればお客様の複数製品へ適用することも可能です。
次の質問に行きますよ。MPI-IPのサポートはありますか?
サポートはあります。MPI-IPをご購入時に、初年度の年間サポートもあわせてご購入をお願いしています。主にMPI-IPに関するお問い合わせへの対応、当社が自発的に修正したIPの修正版の提供を行います。2年目以降のサポートのご購入は任意です。
量産機器や、長期的な運用が見込まれるシステムや機器では、サポートのメリットが大きいです。続いての質問になりますが、MPI-IPのカスタマイズは可能でしょうか?
はい、IPのカスタマイズも承っています。ちょっと事例を紹介しますね。すでにEOLになったHD64570という通信コントローラLSIの置き換え開発になります。

MPI-IPは通信制御を行っていますが、なにやら色んな機能が追加されていますね。ここの部分は、デバイスを置き換える前に実装されていた部分ですか?
そうです。MPI-IPの外側にある、メモリーと周辺機器間のデータ転送を直接行うDMACや、データを先入れ先出しするFIFO、タイマーをFPGAで作り込みました。HD64570の置き換え前と同等の機能を実現しました。
カスタマイズで追加した機能も、FPGAの中に組み込んだというところは大きなポイントですね。こうした工夫は、外付け部品を減らせることで、実装面積の削減にもつながります。こういった部分も、ぜひ相談してほしいです!
最後に
今回紹介したマルチプロトコル通信コントロールIP「MPI-IP」をはじめ、OKIアイディエスって、デバイスのEOL対応に力を入れているんですね。いろいろな置き換え開発用のソリューションがあります。
ニッチな分野ですが、μPD72001が使われたシステムは今でも現役で使用されており、生産を継続する場合は、いずれEOL対応が必要になります。それに、HD64570のように、すでにEOLとなった通信制御用LSIの置き換えをどうしようかと悩んでいる会社さんも多いんですよ。
いつまでも安定して手に入ると思っていたら、部品のEOLって突然やってきますからね。今は安定供給されているデバイスだけど、もう古いし、いつEOLになってもおかしくない。EOLになったらどうしよう…と不安な方も多いのでは…?
多いと思いますよ。4月にMPI-IPやデバイス置き換えソリューションを解説するWebセミナーを開催しましたが、EOL対応について参加者の皆さんは強い関心を持たれていました。
FPGAは仮にEOLになっても他のデバイスで代替可能なため、今後のシステム開発はFPGAを利用するというのも、一つの大きな選択肢になりそうです。μPD72001の置き換えを検討されている方、またHD64570など通信制御LSIのEOL対応でお困りの方は、ぜひお問い合わせください。
MPI-IPをμPD72001の置き換えとして使用する場合、既存ソフトウェアの設計変更が不要な点が大きな特徴です。また、MPI-IPだけでなく、デバイスの置き換えサービスとして他にもN-ProcessやiReDeviceといったCPUやFPGAの置き換え開発サービスもありますので、ぜひご相談ください。「大切なシステムや製品をこれからも作り続けたい、使い続けたい」を実現します!
次回のブログ更新は7月を
予定しています。お楽しみに!
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